俳優という職業は、人類の歴史と同じくらい古い芸術活動です。
「演技は才能や経験によるもの」という長い時代を経てようやく近代になって演技は学問であり、技術として鍛えられるという考え方が広まりました。
その歩みは、世界的な演技メソッドの誕生と進化の歴史でもあります。
今回は、近代演劇における演技メソッドの歴史を振り返ってみます。
1. スタニスラフスキー・システム(1900年代初頭)
20世紀初頭、ロシアの俳優・演出家であるコンスタンチン・スタニスラフスキーが築き上げた「スタニスラフスキー・システム」は現代演劇の祖としてあまりにも有名です。
演技教育を科学的に体系化した最初の大きな試みでした。
彼は「役の内面に生きる」ことを中心に据え、感情記憶や想像力を用いて役と一体化する方法を提唱しました。
「魔法のもしも」など、現代にも残る革新的な技法が生み出されました。
この思想はアメリカに渡り、後のメソッド演技(Method Acting)へも繋がっていきます。
2. メソッド演技(1940〜50年代)
アメリカでリー・ストラスバーグ、ステラ・アドラーらがスタニスラフスキーの初期理論の著書を独自に解釈したものを独自のメソッド演技として確立しました。


<ステラ・アドラー>
ですが、後にステラ・アドラーは「ストラスバーグの『内面・感情重視』は自己陶酔的で 本質からずれる危険があり、芝居や脚本の本質から逸脱しかねない」と批判するなど、その技法の確かさには疑問が残っています。
また、ハリウッドを代表する俳優たち
・・・etc
多くの有名俳優がこの手法を学んだとされていますが、本人たちが「この手法のみに頼っていたわけではない」と証言するなど、メソッドとして体系的であったかどうかについても疑問視されています。
また、このアプローチは感情依存のリスクも孕み、俳優の精神的負担が大きいという課題は有名であり、過去のトラウマや個人の感情に過度に依存させる危険性 については、こん日でも度々、問題視されています。
現在はイヴァナチャバックらハリウッドの演技コーチによって、この技法をベースとした内容が伝えられています。
3. マイケル・チェーホフ・メソッド(1930年代〜)
スタニスラフスキーの弟子であり天才俳優と呼ばれたマイケル・チェーホフ。

<マイケル・チェーホフ>
スタニスラフスキーの内面重視の手法をさらに発展させて「身体と想像力を通して感情を創り出す」という唯一無二の独自メソッドを確立しました。
彼は“心理的ジェスチャー”や“センター”といった概念を提唱し、俳優が安全かつ自由に創造できる道を切り開きました。
チェーホフの教えを直接受けた俳優にはハリウッド黄金期の名優たちが名を連ねます。
代表的な人物として――
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ジャック・パランス(『シェーン』『シティ・スリッカーズ』)
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クリント・イーストウッド(『荒野の用心棒』『許されざる者』)
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ゲイリー・クーパー(『真昼の決闘』『ヨーク軍曹』)
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ジャック・ニコルソン(『カッコーの巣の上で』『チャイナタウン』)
彼らは、チェーホフ・メソッドの「センターを操作し、空間を支配する技術」 を作品の中で体現し、その存在感で観客を魅了しました。
4. 他の現代メソッドと融合
20世紀後半から21世紀にかけて世界各地で様々な演技理論が発展します。
サンフォード・マイズナーの「瞬間の真実に反応する」訓練:レピュテーション

<サンフォード・マイズナー>
ウタ・ハーゲンの自己探求型アプローチ

<ウタ・ハーゲン>
他にもジャック・ルコックの身体表現中心のメソッド、ベラ・レーヌ・システムなど――いくつかの演技メソッドは互いに影響を与え合いながら現代演劇・映画の現場で融合的に使われています。
