俳優革命 – プロ演技トレーナー(講師)/仲祐希の現場ノート

プロ演技トレーナー(講師)である仲祐希が独自の視点で語る俳優革命論

【第110回】俳優は世界を変えられるのか?(1/5)

 「俳優は世界を変えられるのか?」

 この問いは、一見すると壮大すぎるように思えるかもしれない。
 世界を動かすのは政治家や軍人、経済のリーダーや科学者であり、俳優は“娯楽を提供する存在”に過ぎない――
 そう考える人が圧倒的に多いだろう。

 だが、 歴史を知ればそれは誤解であることがわかる。

 世界を変えた人物たちは、いつの時代も まず、圧倒的な注目を集めた一人の人間 から始まっている。

 そして、俳優という職業は「注目を集める技術」を職能として持つ、世界で唯一の存在である。

 結論を先に述べてしまうが、私は “変えられる” と断言する。

 この結論は、精神論や願望ではない。
 歴史・社会科学・人間行動学・演劇史
 それらを多角的に検証していくと“必然”であることがわかる。

 第一部では、この問いを成立させるために、そもそも “世界を変える”とは何を意味するのか? を整理するところから始めていこう。

“世界を変える”とは何を指すのか

 「世界を変える」――
 この言葉は抽象的で、あまりに幅が広い。

 政治体制が変わることか?
 科学技術で社会が一変することか?
 文化が変わることか?
 人々の考え方が反転することか?

 実はこの問いについて、社会科学は明確な答えを持っている。

■社会科学における“世界の変化”の定義

 世界的に著名な社会学カール・マンハイムは、『イデオロギーユートピア』(1929)でこう述べている。

「世界が変化するとき、それは“人々の認識の枠組み”が書き換えられる時である」

 また、政治哲学者ハンナ・アーレントは『人間の条件』(1958)でこう述べた。

「世界を形成するのは、人々が共有する“ものの見方”である。」

 この二つの見解を重ねると、“世界が変わる”とはこう定義できる。

「世界が変わる=人々の価値観・認知・行動が変わり、社会の構造が転換すること」

 つまり、政治や技術の変化より先に、“人々が世界をどう見ているか”が変わることが本質 である。

 そして、“人の価値観を変える力を持つ表現”こそ、芸術の本来の役割であり、俳優の仕事そのものだ。

<マイケル・チェーホフ

歴史を振り返れば、世界は“一人の注目”から変わってきた

 ここで一つの歴史的事実にたどり着く。

 世界は集団が変えたのではない。
 国家が変えたのでもない。
 巨大組織が変えたのでもない。

 世界の大きな変革は、いつの時代も、一人の突出した個人から始まっている。

 これは、世界的な社会学者エベレット・ロジャーズが『Diffusion of Innovations』(1962)で示した「イノベーター(革新者)は全人口の2.5%しかいない」という
理論とも一致する。

彼はこう述べる。

「社会の変革は、極少数の例外的な人間から始まる」
― Everett M. Rogers(1962)

 また、『ティッピング・ポイント』(2000)で知られるマルコム・グラッドウェルはこう記している。

「世界が変わる瞬間は、必ず“一握りの人間”によって引き起こされる。」

 歴史学・社会科学・認知科学――
 これら全てが、“世界は一人の注目から変わる”という事実を示している。

 俳優は、この“注目”を技術によって生み出す唯一の職業である。

次回予告

 次の第二部では、織田信長坂本龍馬スティーブ・ジョブズ――日本人に最も馴染みの深い 「世界を変えた三人」 を取り上げ、彼らがどのようにして世界を変えたのか?
 そして、世界を変える人物に共通する“構造”とは何か?

 を徹底的に深掘りしていく。

 俳優が「世界を変え得る存在である」という事実をより明確にしていこう。


次回【第110回】俳優は世界を変えられるのか?(2/5)